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AIとのコミュニケーション --Griceをヒントにして

AIとのコミュニケーションはしばしば困難だと言われています。例えばChatGPTを活用する際、自分の意図がAIにきちんと伝わらず、必要な情報が受け取れないということもしばしばおきます。今回このような問題を受けて、AIとのコミュニケーションについて考えたいと思います。今回はGrice(1991)を援用して、上記の問題についてある程度解決策を見出したいと思います。

 

まずGriceは言葉の意味について以下のように語っています。

 

x meant that p and x means that p entail p. (Grice, p. 213)

 

これは言葉の意味がそこからほのめかされる「命題」のことを指すと大まかに言えます。

 

そしてGriceは命題の理解を含意を意味すること(implicature)と位置づけ、Kantにならって以下のような原則があると唱えます。

 

Quantity

  1. Make your contribution ás informative as is require current purposes of the exchange)
  2. Do not make your contribution more informative required.

Quality

  1. Do not say what you believe to be false.
  2. Do not say that for which you lack adequate evidence.

Relation

  Be relevant.

Manner

  1. Avoid obscurity of expression.
  2. Avoid ambiguity.
  3. Be brief (avoid unnecessary prolixity).
  4. Be orderly.

(Grice, pp. 26-7)

 

これは「協調性の原則」と呼ばれ、量、質、関係、様式のそれぞれに分けて、名付けられています。上記のようなルールをしっかり頭に入れて、AIに対して正確な「命題」を理解させようと務めることが大事ではないかと思います。

 

またAIの生成する言語も同様に協調性の原則に従いながら理解し、コミュニケーションを接続させていくことが重要だと思われます。大雑把に言えば、言いたいことを簡潔に無駄なく伝えながらも、正しく伝わるように必要な言葉はきちんと入れて、伝えていくということがAIとのコミュニケーションには、人間とのそれ以上に必要とされるのではないかと思われます。

 

関係の原則はのちに関連性理論によって洗練されましたが、この関係のある情報を伝えるというのは実は何よりも大事なことです。AIというのは基本的に人間のニューラルネットワークを模倣しており、どの情報とどの情報が関係するかをきちんと言葉によって表現と理解をしなければなりません。これは関連性理論(とくにexplicatureという概念)と認知神経科学、そしてルーマンの社会システム理論をきちんと読んで再度整理したいと思います。

 

感情を持たないAIだからこそ、きちんと言葉で伝え合うことが重要視されます。とくに明示的な言葉であまり想像力を働かせないようなことば、その使い手になる必要があります。これには逆説的にことばを想像力をもってして使える、そんな担い手になる必須があります。言葉の力とは使い古された言葉ですが、ますますこの力の深さを実感することが人間には必要とされるのではないかと言うところです。

 

参考文献

Grice. 1991. Studies in the Way of Words. Harvard.

Wilson & Sperber. 2012. Meaning and Relevance. Cambridge.